青森地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1958年2月27日
原告 原田勇太 外十三名
被告 金木町長
主文
被告金木町長が、昭和三二年四月二一日附をもつてなした金木町議会を解散する旨の処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
(当事者の申立)
(一) 原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
(二) 被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。
(原告らの請求の原因)
(一) 原告らは、いずれも、昭和三一年二月七日に執行された金木町議会議員選挙に当選し、現に金木町議会議員の地位にあるものである。
(二) 被告金木町長は、昭和三二年四月二一日金木町議会を解散する旨の処分をなし、右解散処分は、翌二二日告示された。そして、右解散処分の理由とするところは、
(イ) 第一二回臨時町議会において、昭和三二年度予算に修正削減があつたので、昭和三二年四月一一日再議に付したが、翌一二日修正予算が再議決されて確定したところ、非常の災害による復旧の施設のために必要な経費たる消防費中貯水槽修繕費四万円、貯水池修繕費三万円が、いずれも一万円に減額されたので、地方自治法第一七七条第四項の規定により、右修正予算の再議決を不信任の議決とみなし、同法第一七八条第一項の規定により議会を解散する。
(ロ) なお、
(1) 昭和三二年三月三一日の議員提案に基き、同年四月二日、助役、収入役の欠員問題の件、昭和二九年、三〇年度決算の不明朗な点、旧喜良市村自動車ポンプ購入寄附金の件、農林商工課の公金流用の件、町長旅費二重取りの件、金木小唄発表会に関する件以上六点を挙示して町長辞職勧告案を議決したこと、
(2) 前記修正予算の議決により、原案に比し、歳入において七、五六三、〇〇〇円を、歳出において八、四六三、六〇〇円を削減し、ことに、特別職たる町長、助役、収入役、固定資産評価員の給与を大はばに減額したこと、役場職員を教育委員会事務局職員に転用するためその給与を社会教育費中に計上したのを全額削除したこと、川倉小学校の増改築費六、六〇四、〇〇〇円中四、〇〇〇、〇〇〇円を減額したこと、その他町長の予算提出権を侵して予算を増加削減していること、
(3) 前記四月一二日の再議案審議に当り、町長支持派議員がわずか一人しか出席していないのに乗じ、修正予算を再議決してこれを確定せしめたこと、
(4) 昭和三二年度特別会計喜良市国民健康保険歳入歳出予算短期資金借入の件につき、定足数に達しないため流会となり審議未了におわらしめたこと、
以上の各事項は、これを事実上の不信任とみなすことができるものである。
というのである。
(三) しかしながら、右解散処分は、次に述べるような理由で違法である。
地方自治法において、町長が町議会を解散することができるのは議会において不信任の議決をしたときおよび議会が非常の災害による応急若くは復旧の施設のために必要な経費又は伝染病予防のために必要な経費を削除又は減額したため町長においてその議決を不信任の議決とみなしたときの二つの場合に限られている。
そこで、被告町長が議会解散の理由としてあげているところを検討するに、まず、貯水槽、貯水池の修繕費減額の再議決が地方自治法第一七七条第四項に該当するというのであるが、そもそも、金木町において最近非常の災害が発生した事実が存しないことは顕著な事実であるから、応急若しくは復旧の施設のために必要な経費なるものが生ずるはずがなく、右貯水槽修繕費等は、同条第二項第二号の経費に当らないのである。従つて、右経費の減額を不信任の議決とみなすことができない。また、昭和三二年四月二日議決にかかる町長辞職勧告は、同法第一七八条第三項に規定する不信任議決たるの要件を充足していないから、これをもつて不信任の議決ということができない。その他、被告町長が解散の理由として挙げている事項は、法律に何ら規定がないのにかかわらず、自ら好まざる議会の行動をとり上げて勝手に事実上不信任とみなしているにすぎないのであるから、これによつて不信任の議決があつたと同一の効果が生ずるものではないこと多言を要しない。
(四) 以上のような次第であつて、本件解散処分は、その前提を全く欠いている違法の処分であり、原告らは、これにより町議会議員たる身分を失うのであるから、ここに右解散処分の取消を求める。
(被告の答弁および主張)
(一) 原告ら主張事実中(一)および(二)の事実は認める。(三)は否認する。
(二) 被告町長のした本件解散処分には何らの違法がない。すなわち、昭和三二年四月一二日減額議決にかかる貯水槽および貯水池修繕費は、冬季の雪害による破損のためその必要を生じたものである。しかるところ、青森県のような積雪地における雪害は「非常の災害」であるというべきであり、かつ、右破損した貯水槽、貯水池は緊急に修理するのでなければ、消防上重大な悪影響を与えることが明白であるから、右修繕費は、たとえ、その額が少くても地方自治法第一七七条第二項第二号の経費に該当するといわなければならない。従つて、前記議決を不信任の議決とみなしたことは正当である。
(三) 本来、町長の有する議会の解散権は、住民の選挙によつてその地位にある執行機関に対し、同じく住民の選挙によつてその地位にある議決機関が対立抗争し、もはや尋常の手段をもつてしては事態を収拾することができない場合に議決機関に対する対抗手段として与えられているものであるから、客観的に不信任の議決と認められる議決が行われた以上は、信任案を否決したときはもちろん、町長辞職勧告の議決をしたときも、地方自治法第一七八条にいう不信任の議決があつた場合に該当する。
しかるところ、原告らによつて組織される金木町議会は、真面目な議案の審議をなさず、暴行暴言のやりとりに終始し、ことに昭和三一年三月一二日の町議会組織会および同年六月二五日の決算議会の最終日には言語に絶する暴力沙汰を惹起し、ついに司直の手によつて起訴せられる者を出すにいたつたのであるが、依然、その態度を改めず、被告が解散の理由中で明らかにしているように、昭和三二年四月二日町長の辞職勧告を議決し、昭和三二年度予算に対し大はばの削減を行い、ことに町長、助役等特別職職員の給与を減額して、助役、収入役等の任命を事実上不可能ならしめ、また川倉小学校の増改築費を減額して危険校舎の改築を不可能ならしめている。以上のような一連の議決は、被告町長の行政の運営を妨害阻止しようとする野望に出たものであることは歴然としており、まさに不信任の議決があつた場合と同視して差支ないものと考える。従つて、被告町長のした解散処分には何らの違法がない。
(四) よつて、本訴請求は失当である。
(証拠関係省略)
理由
(一) 原告らが、いずれも、昭和三一年二月七日に執行された金木町議会議員選挙に当選し、爾来金木町議会議員の地位にあること、被告金木町長が、同三二年四月二一日金木町議会を解散する旨の処分をなし、翌二二日これを告示したこと、しかして、右解散処分の理由とするところが原告主張のとおりであること、右各事実は当事者間に争がない。
(二) そもそも、地方自治法において、町長が町議会を解散することができるのは、議会において不信任の議決をしたときおよび議会が非常の災害による応急若くは復旧の施設のために必要な経費又は伝染病予防のために必要な経費を再議の結果終局的に削除又は減額したため町長においてその議決を不信任の議決とみなしたときの二つの場合に限られていることは明白である。
原告は、本件解散処分においては、その前提である町長不信任の議決又は不信任の議決とみなされる議決が存在しなかつたと主張し被告はこれを争うから、以下この点について判断する。
(イ) 成立に争ない甲第一号証の一、二、原告竹内佐右ヱ門尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、昭和三二年三月二二日から開会された金木町議会第一二回臨時会に昭和三二年度予算が提出されたが、審議の結果相当の修正削減があつたので、被告町長が同年四月一一日これを再議に付したこと、しかるに翌一二日修正予算が再び議決されて確定したことおよび右修正により消防費中貯水槽修繕費四万円、貯水池修繕費四万円がいずれも一万円に減額されたことが認められる。
被告は、右貯水槽等の破損は雪害によつて惹起されたものであり、その修繕費は地方自治法第一七七条第二項第二号の経費に該当すると主張する。しかしながら、右法条にいう「非常の災害」とは震災、水害およびこれに準ずる災害を指称するものと解するのを相当とするところ、近時金木町においてかかる意味における非常の災害が発生したことのないことは当裁判所に顕著な事実である。されば、右貯水槽等の破損は、通常程度の降雪により惹起されたものと認めるのほかはなく、その復旧のためにする経費は前記法条所定の経費に該当するということができない。そうしてみると、その減額の再議決があつたからといつて、被告は、これを不信任の議決とみなすことはできない。
(ロ) 次に、成立に争ない乙第二号証、証人工藤栄の証言、前出竹内原告の供述および弁論の全趣旨を総合すると、金木町議会が、昭和三二年三月三一日の議員提案に基き、同年四月二日六点を挙示して町長辞職勧告案を議決したこと、前認定の修正予算の議決により、予算原案(総額約六、三〇〇万円)に比し、歳入において約七六〇万円、歳出において約八五〇万円の削減が行われ、ことに特別職たる町長、助役、収入役等の給与が大はばに減額されたこと、川倉小学校の増改築費約六六〇万円中四〇〇万円が減額されたこと、役場職員を教育委員会事務局職員に転用するためにその給与を社会教育費中に計上したのを全額削除したこと等の事実が認められる。
被告は、右のような議会の一連の議決には、被告町長を信任しない旨の議会の意思がありありとあらわれており、これすなわち不信任の議決にほかならないと主張する。
しかしながら、地方自治法第一七八条第一項所定の不信任の議決とは、町長に対し直接むけられ、かつ、客観的に不信任の意思を表現している議決をいうものであると解すべく、しかも、同条第三項により、議員数の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意があつたものでなければならないのである。従つて、町長辞職勧告案の議決は、不信任の議決に包含されるということができるけれども、それ以外の例えば予算案に対する削除減額の議決のごときは、たとえ、その意義が政治的に重大であつて、町長に対する不信任の意思を内包しているとしても、不信任の議決に当らないというべきである。
右のような見地から本件を見るのに、昭和三二年四月二日の町長辞職勧告の議決は、法定多数の議員の同意をえていない(この点は、弁論の全趣旨から明白である。)から不信任の議決とはいえないし、その余の議決は、その内容自体において、不信任の議決たりえないこと明白である。してみると、被告の主張は失当である。
(ハ) なお、被告は、解散処分の理由中に、昭和三二年四月一二日の再議案審議に当り、町長支持派議員が一人しか出席していないのに乗じ修正予算を再議決したことおよび短期資金借入の件等を審議未了におわらしめたことをかかげているが、右が、解散の正当の理由となりえないことは前述したところから明白である。
(三) 以上説明したとおり、被告町長のした本件解散処分は全くその前提を欠き違法の処分として取消を免れないところ、原告らは、右解散処分により議員たる地位を失うのであるから、その取消を訴求する利益を有するものである。よつて、本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 右川亮平)